最初に言っておく。 私は年齢をお召しになった職人系のヒトに甘く、ほぼ無条件に賛辞を送る癖がある。 この視点からすると村上氏の経歴に対する私の賞賛は普段の言動と一致しないかもしれないが、ご容赦いただきたい。
本書は帝国ホテル料理長であった村上信夫氏の自伝である。 一貫して自らの経歴を淡々と振り返るとともに、人生においてなんらかの”ギフト”をくれた人々を懐かしく紹介する氏の余裕ある語り口は嫌味がなく、さすがホスピタリティを旨とするホテルマンとして、お客様を喜ばせる職人として60年近くの経歴を持つと感心させられる。 が、時折はさまれる写真の中の村上氏は精力的なまなざしを持っていてテキストの与える印象とは食い違うのだ。 本書の中で村上氏は「欲」が大事だと言っている。欲がなければ、新しいことは吸収できない。従って、進歩はない、と言う。 序文を書いている三国氏をサポートしたのも、欲を持っていたからだという。 精力的なまなざしは、この欲によるものであろうと思う。
私の敬愛する先輩諸兄/姉 - ご無沙汰ばかりですいません - も、欲の多いヒトばかりである。 自分もまた、ぎらぎらした目をして毎日を送りたいものだ。
高度成長の熱狂がうらやましいと共に、自らの老い方を考えさせられる一冊。 老いるとは、消えてゆくことではなく、つんできた経験によって自らの欲をますます追い求めることで有ってもよいのではないか、と問いかける村上氏は快楽主義者の友、料理人であったと気付く。
ゴリゴリ行こうぜ、兄弟
