Archive for 2006年10月

【レビュー】ミヤザワケンジ・グレーテストヒッツ

10月 2nd, 2006

書店でジャケ買い。ぬるい。

絶望も希望も喜びも憎しみもぬるい。
宮沢賢治をリミックスしたつもりなのだろうが、天然ものの鯛をわざわざシチューにしたようなもったいなさ。ホテトルの少女も出会い系のサクラの兄ちゃんも、アルツハイマーな父親の看護に疲れる母親もそれはおそらく、ネネリやブドリや叉三郎なのだろう。ネネリやブドリや叉三郎は宮沢が生きた時代のリアリティと対応しており、これらと同等のリアリティを今に求めてゆけば、売春少女やひきこもりくんになるのだろう。

でも、そんなのニュースで充分じゃない??
ニュース以上のリアリティを小説が持とうとするのはもう無理だと思う。私をそうさせたのはインターネットだけれど。ニュースに対応してあちこちのブログで議論が始まり、掲示板でも同情や皮肉や侮蔑が溢れていくのに、なぜ再構成されただけのものに感動できるだろう??

とれたての活け造りを食べてられるのに、なぜ塩漬けのしかも下手なシチューをくわにゃいかんの?ということです。

リアリティを煎じ詰めてファンタジーにしちゃうキチガイさ加減、それでも仏教に根本を置き続けた宮澤とポストモダン後に世界構造とテキストの区別がつかなくなった現代作家との奇妙な合致が楽しめはする。「主張や世界観はあるが、まるで機能しない」という。そういえば本書には呆けた老人が多く登場する。

「4月の気層の光の底を 唾きしはぎしりゆききする 俺はひとりの修羅なのだ」と自己を嘲けた宮澤に共感するには、現代には選択肢がありすぎる。あぁ、だから「グレーテストヒッツ」なんだ。

ミヤザワケンジ・グレーテストヒッツ

【レビュー】髪結いの亭主

10月 2nd, 2006

愛し合うことは幻想である。日常が幻想を包み込むだけの包容力を持っていれば良し。でも、幻想が現実を飲み込んでしまったらどうなるか?
カタストロフである。

本作のストーリーはいたって簡単かつおバカ。
少年時代に床屋でシャンプーしてもらうときに胸チラ見せ付けられてたオヤジが念願かなって「髪結いの亭主」になってラブラブな生活送ってたら、嫁さんが「今が一番幸せだから、ここで人生終わりにしたい」とか言って自殺してしまい、オヤジ落ち込む。これだけ。

このおバカなストーリーをルコント監督は官能的な映像でこってりと描写し、ヒロインのねーちゃんのむせ返るほどの色気を飛ばしてくれる。主役のオヤジは軽妙で、この「非現実的」な話にふさわしい存在感である。このバランスが私の「やわらかいところ」に食い込む。 最初に見たときにはラストで泣き出してしまい、恥ずかしくて外に出られずもう一回見てまた泣いた。

以来、泣くのが嫌で見ていない。
しかし、このように愛し愛されることは幸せなのだと思う。 妻の視界には夫しかおらず、夫の視界には妻しか居ないのだから、幸せでない訳がない。 そして同時に幸せにはなりえない。 お互いしか見えていないのであれば、日常は乗り切れない。 その結論は命を絶つことしかありえない。

くそぉ。 人生はもっと気楽であるべきだ。

髪結いの亭主

【レビュー】スモーク&ブルー・イン・ザ・フェイス

10月 2nd, 2006

同名映画の脚本と、スケッチ集など。 が、脚本部分は映画そのままなのでおまけといってもいい。

すばらしいのは、「スモーク」で使ったセットが使えるから、という理由で作ってしまった映画「ブルー・イン・ザ・フェイス」のプロット集と実際の脚本部分だ。ポール・オースターが書いたプロットから出演者が肉付けをし、命を通わせていく様に興奮する。もちろんこの興奮をより味わうためには映画「ブルー・イン・ザ・フェイス」も見る必要がある。プロット部分だけではなく、ハンディ・ビデオでスケッチされたブルックリンの、空気感などという言葉を使いたくないほどつめこまれた活気も心地良い。 

本読みとしては「スモーク」制作のきっかけとなった「オーギー・レンのクリスマスストーリー」が完成度ぴか一で気持ちいい。さすがオースター。 映画のラストではこれをハーベイ・カイテルがトム・ウェイツにのせて、長いカットで語るのだが、これもまた震える出来。

映画の「スモーク」自体はだるい。学芸会レベルかも…そういえば「ブルー・イン・ザ・フェイス」もこの本読んで、関係者の感覚を持って見ないとくそ映画かも…禁煙するジム・ジャームッシュとか面白いけどね。

スモーク&ブルー・イン・ザ・フェイス

【レビュー】コーネルの箱

10月 2nd, 2006

ジョセフ・コーネルの作品に、チャールズ・シミックがコラージュ的に能書きたれる本。

コーネルは小箱の中にマッチ箱や小枝、人形や新聞の切抜きなどを配した作品を特徴とするアーティスト。そうしたコーネルの作品を再度パーツとして1冊の本の中でシミックが文章を添え、メタ・コラージュとして成立させている。そしてのしミックの本をさらにパーツとして、私がメタ・メタ・コラージュとしてこのレビュー集を…

コーネルのノスタルジーに満ち溢れた作品、上質な印刷と用紙、さらに柴田元幸氏の詩情にあふれた翻訳とイメージ中毒で遊ぶ道具立てはすべてそろっている。シミックのことは良く知らないが、本書では上質な幻想を与えてくれる。惜しむらくは、私が日本人でありコニーアイランド幻想は持ってなくて後楽園遊園地だし、砂漠や荒野は身近になくて山手線が日常なのだ。 マックス・エルンストぐらい時代が離れると、違和感もわかないのだが。

休日の昼下がりにコーヒー飲みながらゆったりと眺めたい本。

コーネルの箱

【レビュー】停電の夜

10月 2nd, 2006

アメリカ東海岸の作家はスケッチするように小説を書くのだ、と確認。 人種的には作者はインド系なのだが、東海岸にはそのような空気があるのだろう。

ポール・オースターも、オー・ヘンリーもそうだがこの作家も街角で生きる普通の人々の生活を切り取り、スケッチしてみせる。その当人にしか意味の無いような情景。その状況に共感できる周波数を持った人だけが反応できる描写。あるいは、箱庭のような情景に人のゆらめきを見る情緒。

この短編集では作者のバックグラウンドを反映して、インド系の人々の日常が描かれてゆく。表題作は秀逸。工事のために5日間、1時間づつ停電があることを知ったカップルが秘密を打ち明けあう。最初は無邪気だった行為がだんだん変質し、カタストロフにつながる。

日本においても私小説に対して各種の批判があったが、すべての人にとって最も大きな部分を占めるは半径10メートル以内で起こる家族や恋人、同僚との日常である。作者の描く掌編はこうした日常に優しさを加えてくれる。
オー・ヘンリー賞受賞もむべなるかな。

ちなみに私と同い年で、えらい美人だ。

停電の夜に

【レビュー】完全なる経営

10月 2nd, 2006

欲求5段階説で有名なマズロー先生が経営に口だしちゃった本。

5段階は…

生理欲求:喰う。出す。やる。
安全欲求:ゆっくり寝るとこほしーなー。
親和欲求:おう、今日のみ行こうぜ。
自我欲求:課長、僕のこと認めてくれてもいいんじゃないすか
自己実現欲求:あの仕事、われながら最高。

て感じ。

専門諸兄には異論をお持ちだろうが、1億総て中流である日本においては生理から親和欲求まではほとんど無視して良いと思っている。

で、本書だが経営にこうした視点を持ち込もうとしたことで「会社暮らしを諭す隠居のおじさん」風味になってしまっている。構造化され、検証可能な視点というよりも漠然とした方向性:各個人の能力と段階をうまく対人スキルを使って引き出し…みたいな話に終始する。

人生論とか方針付けには良いかもしれないが、Managementというからには検証可能性に重きを置いて欲しかった。

完全なる経営

【レビュー】深夜特急

10月 2nd, 2006

これ読んで旅に出たくないやつは前に出ろ。
おじさんが根性たたきなおしてやる。

旅の目的が旅をすることそのものである場合には、旅行者はその土地におけるただの異物である。異物であることが旅行者の主観をさらに鋭敏にさせるのだろう。作者は風物ではなく、その土地に生きる人々を受け止め、記憶に残し次の土地へ去る。

ボヘミアン幻想なんだろうが、そんな暮らしが無性にしたくなり、読むたびに格安航空券サイトを見に行ってしまう作品。 若いうちに読んどけ!! そんでもって旅に出ろ!!

深夜特急〈1〉香港・マカオ

【レビュー】半神

10月 2nd, 2006

初出は1984年なので初めて読んでからすでに20年以上になる。

詩である。美しい詩だ。魂を切り裂き、血を流させる詩だ。読み返すたびに、諦めてしまった事や別れた恋人たち、死んでしまった大切な人たちを思う。おいていかれたのは彼らだろうか? それとも私だろうか。私は今、愛されているだろうか? その価値があるだろうか? 私が愛する人たちは幸せだろうか?? そのような問いに答えがないこと、あったとしても時間の中で答えが変質していくことを僕はもう知っている。 知ってしまってなお、知らなかったときに心に食い込んだ物語は失ったものや得たものを浮き彫りにする。 神様が僕の自信を剥ぎ取ったあの日、単純に僕が憎んだのは自分自身だったか?? それとも神だったのか??
表題作はわずか16ページ。でもあと40年ぐらい読み返すだろう。先に行ってしまった友人や道の途中で別れた人たちと雲の上で会える日が近いと確信できるまで。

半神

【レビュー】宇宙の戦士

10月 2nd, 2006

ガンダムを語る前にこれを読め!!と原点主義のおじさんは叫んじゃうね。

ポール・バーホーベンの映画化では本作のテーマをカリカチュアしており感心しない。本作は浪花節と根性、そして祖国と家族と危険との間に我が身を盾とする「汗臭い男の世界」味満点なのだ。

父上様、母上様、三日とろろ美味しゅうございました
海は死にますか 山は死にますか

パワードスーツもかっちょええで。
巻末にある解説の議論は既に陳腐化して今日的ではないので、無視してよろしい。

私の政治観が右傾しているとしたら、本書を少年期に読んだからだね。

宇宙の戦士

【レビュー】コトラーのマーケティング・マネジメント

10月 2nd, 2006

儀典凡例集です。

聖書の教えに背かなければならないときも、儀式の作法は守らねばならぬときがあります。
そんなときは厳かに本書を取り出し、祭礼の儀典を学びましょう。
もちろん、聖書の教えに従うときにも本書で説明されている作法に従ってください。

あ、ちなみにあんまり新しい作法については欠けています。が、宣教師たるもの既存作法を組み合わせるぐらいやってのけられなければ異教徒の改宗はおぼつきません。
がんばってください。

コトラーのマーケティング・マネジメント -ミレニアム版-