泉鏡花賞をとったそうだ。
情念がいかに醗酵し、腐敗していくのかを、見せられていく。 狂言回しに使われる「怪物的な美貌をもち、体を売らずにいられないユリコ」に拘わる二人の女性 - 姉と姉の友人が、一人は世界との積極的なつながりを行わないことでユリコを否定し、もう一人は昼はキャリアウーマン、夜は娼婦になることでユリコを越えた存在になろうとする。
二人とも、ざわつく心を押さえ込めずに狂って行く。 狂い、そして殺される。一人はユリコを殺したのと同じ男に殺され、一人はユリコの息子にそれまでの人生を転換させられ、それまでの自分を殺す。
物語は一貫して登場人物たちの一人称で語られる。それぞれの主観の中でお互いの姿が描写されていく。 自己に対峙する他者は悪意であり、情欲であり、嫉妬や暴力、吝嗇として語られつづける。 オレは悪くない。 ワタシは悪くない。 自己弁護と他者への羨望や憎悪が一人称で語られ続ける。 そのなかで、生まれつきの娼婦であるユリコだけがバランスの取れた視点を持っているかのように描かれるが、後半に向けて歳をとり魅力をなくしていくとともにやはりユリコも狂って行く。 狂った彼女が殺されることは必然だし、救済とすら言える。 彼女の人生は、緩やかに悪夢の中で死んでいくことだから。
出来は良い、と思う。 文体の切り替えや語りの上手さが物語へ引き込んでいくし、プロットは刺激をもち、エピソードはリアルだ。 それだけに、エンターテイメントではなくなっていると思う。 娯楽としてこの本は読めない。 悪夢として4時間を過ごし、自分の中に同じ狂気、悪意、情念があることを感じて不快になる。 不快感と向き合う技術をお持ちでない方には、薦めない。
つやのある粘液を放つ、腐臭のする不快感は泉鏡花の名にふさわしい。 いけるヒトは、是非どうぞ。

