CNETでの記事「誰のためにDRMはある?」にコメントさせてもらおうと思ったらできないので、トラックバックで失敬。
ジョブスのDRMなんかいらないよ、というコメントが煮え切らないとの指摘だと理解したのだけれど、煮え切らない理由についての考察が今ひとつ具体的な根拠にかける気がした。さらにDRMが一般に受け入れられているのではないかとの根拠については、「それは違うんじゃないか」とおもってしまった。
まずiPODに入っているのがiTunesで買った音楽だ、というのが間違いだ。みんなのiPODに入っているのはTsutayaで借りたCDをリッピングしたものだ。これの根拠については、日本レコード協会の報道発表をごらんいただきたい。
CDの生産額 - 販売額、じゃないですよ。作った金額なので、当然売れ残りが出てる。したがって、実際の規模はもっと小さい。 - が4000億で、デジタル配信が534億、内携帯電話向けが482億円である。PC向けは50億円弱しか売れていないのだ。さらにいえば、携帯電話向けは20-30秒程度の着うたと、フルコーラスが聴ける着うたフルの比率が年が明けてようやく、6:4ぐらいになってきたのが正直なところだろう。さらにヘタをするとこの数字にはいわゆる着メロを含んでいる可能性すらある。
ということで、ここで計算。
国内にiPodが500万台 - 総務省の人口推計によれば国内の20代の人口は1500万人程度なので「20代の3人に一人が持ってる」ぐらいの数字。MDの市場規模がこれぐらい。 - あったとして、Itunesが1曲200円としよう。50億円は1台あたり5曲だ。5曲×200円×500万台 = 50億。
また、1人あたりのcd購入数は年間2-3枚程度という数字もどこかにあった。Ipodにたとえば500曲入るとして、残りの数百曲はどこから来ているのか - Tsutayaの決算発表資料とかをご覧になってみてはいかがか。
ということで、PCでは音楽は売れていないのだ。とするとItunesのFairPlayをみんなが受け入れている、というのはちょっと違うと思う。レコード業界が受け入れ始めた - あまりに金が入ってこなくなってきたんで新たな販路を拓かざるを得なくなってきた、というのなら正確だと思うけど。
翻って、携帯電話である。
ご存知のとおり、携帯電話での音楽はDRMでがちがちに保護されている。CDからのリッピングもできるが、それでは着信音設定ができないので、キャリアの公式サイトから買うしかない。この図式は、たとえばすでにCDを購入しているにもかかわらず、着うたに対してもう一回金を払わなきゃいけない、という”2重課金”の構図を生み出している。ここに対して批判が出るのなら、判る。が、この記事がテーマにしているのはDRMだ。今現在、ユーザがDRMを意識していないか、といえばそりゃぁもうバリバリに意識していると僕は思う。でなければ無料着うたサイトがあんなに盛り上がる理由がない。「社会人としての安全性」を気にしないヒトの方が世の中には多いようにも思うし。音楽の主要な顧客は学生や若年層で、基本的には金がない。ただで手に入る=DRMがかかっていないのならその方が彼らはうれしい。
じゃぁ何でAppleがDRM不要コメントを出すか??といえば、僕には答えはひとつしかないように思われる。すべてのコンテンツをItunesで取り扱えるようにするため、だ。DRMの規格はFairPlayやSDAudio,さらにはMPEG4を含めて乱立しているのが現状で、それぞれコンテンツホルダやチャネルの思惑を孕んで一元化が難しい。この辺はDVDの規格競争とも似ている。
ハードウェアで市場を制覇したAppleが「俺らに任せときゃ悪いようにはしないからさ、まぁ自前のDRMは忘れなよ」というのが、ジョブスの”DRM不要論”であるのではないか。
ちなみに、デジタルで音楽が売れているのはアメリカと日本だけである。
国際レコード協会のレポートによれば、アメリカでの2006年シングルトラックダウンロードは6億回弱。対して、全ヨーロッパでは1億回弱である。同資料では”着うた”の配信に必要(と僕には思われる)第3世代携帯電話の普及にも言及している。最も普及しているのは日本で、53%。イギリスは14%、アメリカは8%である。つまり、ほかの国には携帯電話配信のプラットフォームがない。
CDは売れず、レンタルでは売り上げが足らず、かといってライブは利益率が悪く、デジタル配信でもそれほど大きなマスはない、という状況の中で音楽をやっている連中はなんとか皆がメシを食えるようにと四苦八苦なのだ。
冗談ではなく”メシを食う”レベルのカネをなんとか作ろうとしている状況の中で、DRM撤廃なんて極楽トンボなコメントに反応できるはずがない。逆に私的複製保証金、著作隣接権などのマネタイズ手段を整理して、有能なクリエイターたち - アーティストの制作を支える職人たちが干上がらないための方向に役所も動いているのだ。
もうすこし、掘り下げて見てはいかがだろうか、クロサカさん。